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松江地方裁判所 平成元年(ワ)108号 判決

大阪市西区新町3丁目14番13号

原告

日本交通株式会社

右代表者代表取締役

澤巌

右訴訟代理人弁護士

伊丹浩

松江市灘町65番地2

被告

日本交通株式会社

右代表者代表取締役

田川孝雄

右訴訟代理人弁護士

平山茂

木村修治

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

被告の平成元年5月16日開催の定時株主総会(以下「本件総会」という。)における以下の決議をいずれも取り消す。

1  第39期貸借対照表、損益計算書及び利益金処分案承認の決議

2  田川孝雄(以下「田川」という。)、石村巌(以下「石村」という。)、中島大一(以下「中島」という。)、田中信一(以下「田中」という。)及び新谷栄(以下「新谷」という。)を被告の取締役に選任する旨の決議

第二  事案の概要

本件は、被告の株主である原告が、平成元年5月16日に開催された本件総会において、株主として質問権を行使したのに対し、被告が説明義務を尽くさなかったとして、右説明義務違反による決議方法の法令違反もしくは決議方法の著しい不公正を理由に右総会においてなされた決議の取り消しを請求する事件である。

一  争いのない事実及び証拠上容易に認定できる事実(証拠の摘示のない事実は当事者間に争いがない。)

1(一)  被告は、旅客自動車運送事業などを目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。

(二)  原告は、被告の株主である。

2  被告は、平成元年5月16日、松江市東朝日町278番地3所在の被告会社事務所において本件総会を開催し、〈1〉第39期貸借対照表、損益計算書及び利益金処分案承認の決議、〈2〉取締役全員及び監査役全員の任期満了による改選につき、取締役及び監査役全員を重任する決議(この決議により、田川、石村、中島、田中及び新谷を被告の取締役に選任した。)(以下、〈1〉にかかる議案を「計算書類承認議案」、決議を「計算書類承認決議」、〈2〉にかかる議案を「役員選任議案」、決議を「役員選任決議」、双方の決議を併せて「本件決議」という。)をそれぞれ行なった。

3  被告は、平成元年4月28日付けで、本件総会(第39期定時株主総会)を同年5月16日午前10時に被告会議室にて行なう旨、当日の議題は計算書類承認議案及び役員選任議案である旨を各株主に通知した。

原告及び被告の株主である澤廣行(以下、両者をまとめて「原告ら」という。)は、本件総会に先立ち別紙質問事項目録記載の事項及び関連事項について質問を行ないたい旨記載した質問事項書(以下、「本件質問事項書」という。)を、平成元年5月2日付けで被告に送付し、同月3日に被告に到達した。

また、右同日、原告は、被告会社において、第39期附属明細書及び現行定款を閲覧し謄本の交付を受け、総勘定元帳、経費元帳、銀行勘定元帳、金銭出納帳を閲覧し、これらを写真により接写した。

4  本件総会は、被告代表取締役の田川を議長として進行したところ、出席者は、原告の代理人澤志郎(以下「澤代理人」という。)、田川、島根日本交通株式会社(以下「島根日交」という。)の代理人藤井薫、日交整備株式会社(以下「日交整備」という。)の代表者森山文二、株式会社クラウンタクシー(以下「クラウンタクシー」という。)の代理人新谷、石村及び澤廣行の株主7名全員が出席した。

5  本件議案の審議において、被告担当者山本義二三が本件質問事項書を朗読した後、被告取締役の田中が、同書面記載の質問に対し、一括して、以下のとおり回答した(甲1、乙6、証人澤志郎(以下「証人澤」という。)、同田中信一(以下「証人田中」という。))。

(一) 計算書類承認議案について

(1) 別紙質問事項目録一、1の質問(別紙質問事項目録記載の質問については、その項目のみにより以下略記する。)に対し、収入が16.7パーセント(の増加)で1708万円余の増収、支出が14.4パーセント(の増加)で1504万9000円余の支出増になった、と回答した。

(2) 一、2の質問に対し、収入が1.4パーセント(の増加)で2008万円余の増収、経費が1074万円の増加で0.7パーセントの増加になった、それ以外の事項は営業報告書の内容で理解してほしい旨回答した。

(3) 被告の関連会社との関係について、

〈1〉 一、3、(一)の質問に対し、第38期において既に承認されており、第39期においても各関連会社それぞれが経費の分担は正確にしていると回答した。

〈2〉 一、3、(二)の質問に対し、現在賃貸借契約書は作成していないが各社の相互利用による使用貸借契約書作成の予定があると回答し、澤代理人が作成予定の時期を質問したのに対し、平成元年一杯に作成できると思うと回答した。

〈3〉 一、3、(三)の質問に対し、本日の議題と直接関係がないとの理由で回答しなかった。

(4) 一、4の質問に対し、第38期の当初に各社がタクシー代行の営業を始めたが、それ以前は、松江市内の業者が共同でタクシー代行を運営しており、その分について負担が高かったためタクシー売上の10パーセント位が持出しになっていたが、各社が分担経営するようになってからは利益は出ていないものの持出しは僅かである旨回答し、収支はどうなっているかとの澤代理人の質問に対し、黒字にはなっていないと回答した。

一括回答の終了後、澤代理人がいくらの持出しですかと質問したのに対し、田中は、金額的には記憶していないがごく僅かなものであると回答した。

(5) 簸川郡大社町大字杵築東所在の土地に関して、

〈1〉 一、5、(一)の質問に対し、取得年月日は第38期定時株主総会で説明したとおりであり、場所は西側に1か所、東側に4か所、その他植木及び庭石があると回答し、澤代理人が減価償却明細書に記載されていないから質問している旨発言して重ねて説明を求めたのに対し、記載されていると回答した。

〈2〉 1、5、(二)、(1)の質問に対し、東側の土地、西側の土地ともに売買契約書は有効なものと理解して現在保存管理していると回答した。

〈3〉 一、5、(二)、(2)の質問に対し、特別に定めていない旨回答した。

〈4〉 一、5、(三)、(1)の質問に対し、被告名義以外のものは現在も調査していないので固定資産税が課税されているか免税であるかは分らない旨回答した。

〈5〉 一、5、(三)、(2)の質問に対し、従前の計画どおり話を進めてはいるものの現在少し交渉が延びているが、現実に交渉を続けているので早急に結論を出したいと回答した。

(6) 松江地方裁判所昭和63年ワ第41号事件(以下「別訴事件」という。内容は後記7のとおり。)について、

〈1〉 一、6、(一)、(二)の質問に対し、本件総会の議題に関係ないとの理由でいずれの質問にも回答しなかった。

〈2〉 一、6、(三)の質問に対し、契約はすべて有効であると認識し、そのように対処しているとし、第37期定時株主総会で田川が「被告会社のものにならない。」旨答弁したことについては、裁判所で明らかになるとして回答しなかった。

〈3〉 一、6、(四)の質問に対し、田中が、西側の土地の全体は造成していないがその北側部分は造成して庭園を造っている、田中が造成していないと言ったとすれば、表現の間違いか記憶違いではないかと回答した。

(7) 利益金処分案について

一、7の質問に対し、配当性向については特に理由がない旨、利益の株主還元については継続的安定配当に努力したい旨回答した。

一括回答の終了後、澤代理人が第37期総会において田川が無借金になれば増配を考えたいと説明したが今期は実質上無借金になったのではないかとの質問をしたのに対し、田中は配当に対する考え方は前期と別に変っていない旨、田川は借金とはよそから借りた金が借金である旨回答した。

(二) 役員選任議案について

(1) 二、1の質問に対し、本日の議題とは関係がないとの理由で回答しなかった。

(2) 二、2、(一)の質問に対し、重任予定者は従前どおりであり、一切変わっていないとのみ回答した。

(3) 二、2、(二)の質問に対し、いずれも本日の議題と関係がないとの理由で回答しなかった。

(4) 二、2、(三)の質問に対し、取締役会に一任しているとの理由で回答しなかった。

(5) 二、2、(四)の質問に対し、いずれも従前のとおりであるとのみ回答し、具体的に回答しなかった。

(6) 二、3、4の質問に対し、本件議案と関係がないとの理由で回答しなかった。

6  原告らは、昭和62年5月16日及び同63年5月16日に開催された第37期及び第38期被告定時株主総会において、事前に質問事項書を提出の上、被告取締役に対し多数の質問を行なった。その結果、株主総会終了時刻は、第37期定時株主総会は午後4時5分、第38期定時株主総会は午後7時となった。(乙5の3、4、8の1、2、23の1、2、証人澤、同田中、弁論の全趣旨)

7  原告は、昭和63年4月、被告取締役である田川、石村、中島、田中、新谷を相手取り、被告が昭和41年から同44年にかけて買収した島根県簸川郡大社町大字杵築東所在の土地のうち町道真名井矢野線西側の土地についての事後措置に任務懈怠があったことを理由として取締役の責任を追及する株主代表訴訟である別訴事件を提起し、被告は、同年6月3日付けで右訴訟の被告側に補助参加するとの申立てをした。そして、平成3年1月23日、松江地方裁判所は別訴事件について原告の請求を全部棄却する旨の判決を言い渡した。(甲30、乙28、証人澤)

8(一)  被告は、資本の額が金4800万円、発行済株式数96万株、株主数7名の小会社(株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律22条1項)であり、定款において株式譲渡制限の規定を設けている。平成元年3月20日現在における被告の株主構成は、石村が5万5998株、原告が16万5000株、澤廣行が3万4997株、日交整備が10万9567株、島根日交が31万6221株、クラウンタクシーが19万8221株、田川が7万9996株である。本件総会時における被告の代表取締役は田川であり、その他の取締役として、石村、中島、田中、新谷が就任していた。(甲5、乙2、弁論の全趣旨)

(二)  本件総会前後の時期において、島根日交の代表取締役として田川が、その他の取締役として藤井薫、田川益行、田川堅持が、クラウンタクシーの代表取締役として田川が、その他の取締役として新谷、田川益行、田川堅持が、日交整備の代表取締役として田川及び森山文二が、その他の取締役として田川益行、田川堅持、田中が、株式会社日交工芸(以下「日交工芸」という。)の代表取締役として、田川及び講武逸人が、その他の取締役として田川益行、田川堅持が、株式会社日本交通旅行社(以下「日交旅行社」という。)の代表取締役として田川及び田中が、その他の取締役として中島功、霜村憲司が、日交商事株式会社(以下「日交商事」という。)の代表取締役として、田川及び中島功が、その他の取締役として田中と森山文二がそれぞれ就任していた(甲6ないし8、証人田中、弁論の全趣旨)。

二  争点

1  原告の質問権(商法237条の3第1項)行使の有無

(一) 原告の主張

原告が、本件総会において質問権を行使したことは、〈1〉本件総会において、澤代理人が具体的に質問しようとしたのに対し、田川が遮り、被告担当者が本件質問事項書を朗読した上前記の回答に及んだこと、〈2〉田川や田中が、「回答する。」、「説明する。」などと発言したこと、〈3〉田川や田中の〈2〉の発言に対し、澤代理人が「頭から順番にやって頂けるのでしょうか。」と確認していること、〈4〉澤代理人や澤廣行が、被告の前記回答後さらに個別的に質問を行なったことなどから明らかであって、被告担当者は単に原告の質問事項書を代読したにすぎない。

(二) 被告の主張

被告は、本件総会において、第39期の営業報告と、計算書類承認議案の一括審議の後、原告の提出した本件質問事項書を被告担当者が朗読し、前記のとおりの一括回答を行なったものであるところ、原告が本件質問事項書を提出したこと自体は質問権の行使ということはできず、被告の一括回答は、商法237条の3の説明義務の履行ではなく、法律的には報告事項の追加である。

2  被告のなした回答が説明義務の履行として十分か否か及び被告が回答を拒否した事項について正当な拒絶事由の有無(説明義務の範囲)

(一) 総論的主張

(1) 原告の主張

〈1〉 株主が質問権を行使する場合、説明のための準備に必要な程度にその質問が特定されておればよく、当該質問が計算書類のどの事項に関するものであるかを株主において指摘する必要はない。しかも、実際に原告の行なった各質問事項が何を対象にするものかは後記のとおり明らかである。

〈2〉 原告と被告との密接な関係

被告と原告との間には、被告は元々は原告の子会社であり、昭和48年5月まで原告の管轄下にあったこと、原告と被告は同一商号で同じサービスマークを用い同種営業を営なんでいること、原・被告従業員の各労働組合も関係が深いこと、原告と被告はタクシーチケット事業や共済事業及び厚生年金基金においても密接な関係があることなどの事情が存し、被告は原告を中心とする日本交通グループの一員とみなされており、被告の運営状況によっては日本交通グループ全体に悪影響を及ぼすおそれがあるばかりか、原告らは、被告の発行済株式の約20.8パーセントを有しているため、原告は被告会社の経営状態に強い利害関係を有している。

〈3〉 被告会社の規模

商法上の大会社については、会計監査人により詳細な監査がなされ、計算書類について正確性が担保され、その反面、営業報告書のみならず貸借対照表、損益計算書も原則として報告事項とされているのであり、また、株式が公開されている公開会社に対しては証券取引法において作成・縦覧が義務付けられている有価証券報告書によっても、会社の状況に関する情報が開示されることになる。

これに対し、被告会社の規模は前記第二、一、8、(一)のとおりであり典型的閉鎖会社であるから、被告会社の取締役の説明義務は、公開会社や大会社に比べてより広くなるものと解するべきであり、計算書類承認議案における説明義務の範囲を貸借対照表、損益計算書などの内容に限り、かつ、付属明細書の記載を限度として説明すれば足りるとする被告の主張は失当である。

〈4〉 被告の株主構成

原告らを除く被告の株主は、島根日交、クラウンタクシー、日交整備、石村及び田川(持株割合の合計は約79.2パーセント)であるところ、右3社の代表取締役はいずれも田川であり石村は被告の取締役であって、いずれも田川の支配下にあるため経営に対するチェック機能を期待できない。しかも、被告の株主構成は10年間にわたって基本的に変動しておらず、実際に質問権を行使した株主は原告らのみである。したがって、被告会社にあっては、本来公開会社について想定されている概念である平均的な株主を基準にして説明義務の範囲を画することはできず、原告らを基準として説明義務の範囲を画するべきである。

〈5〉 計算書類承認議案における説明義務の範囲が被告主張のように附属明細書の記載を限度とするとすれば、附属明細書の閲覧・謄本交付請求権に加えて、株主に質問権を認めた趣旨が没却される。

〈6〉 被告主張のように、計算書類承認議案における説明義務について営業報告書、貸借対照表や損益計算書の記載につき附属明細書の記載を限度として説明すれば足りると解したとしても、計算書類、附属明細書の記載に不備・不足がある場合や、計算書類の内容が矛盾する場合には、これを補完する説明をなす義務があると解するべきであるところ、被告の計算書類などには、原告が質問した事項について後記のような記載の不備などが認められるのであるから、被告取締役に説明義務がある。

〈7〉 役員選任議案は、実質的には被告提案にかかる議題であるから、後記の被告の主張〈3〉は事実に反する。また仮に、役員選任議案が株主の動議によるとしても、取締役の説明義務はこれに及ぶものと解するべきである。

〈8〉 取締役選任議案に関しては、大会社の株主総会の招集通知に添付すべき参考書類等に関する規則(以下「参考書類規則」という。)3条1項1号において、候補者の氏名、生年月日、略歴、保有株式数などを株主に送付すべき参考書類に記載することが定められており、これは、大会社のみを対象としているが、これ以外の会社においても参考書類の記載事項については説明義務があると解するべきであり、役員選任議案における説明義務の範囲は相当広範なものと解するべきである。そして、原告の質問事項は、いずれも右記載事項に関連する事項である。

〈9〉 取締役が再任される議案においては、当該取締役候補のこれまでの職務執行状況について、少なくとも概括的な説明を行なう義務がある。

〈10〉 原告は、被告の各取締役の年齢、特技、能力、常勤・非常勤の別、従前の取締役会への出席状況、職務分担などについては一切知らない。

〈11〉 被告は、会計帳簿等の閲覧謄写により原告には質問権行使の必要がなくなったと主張するが、会計帳簿等によって明らかになるのは業務執行状況のうち会計面に限定されるし、会計面についても附属明細書ないし被告取締役の説明がなければ完全には理解できない。しかも、写真で接写した会計帳簿の写真のプリントを入手したのは平成元年5月12日であったから、原告には十分な検討時間がなかった。

(2) 被告の主張

〈1〉 商法237条の3第1項但書の規定は、株主総会における取締役の説明義務は、株主が会議の目的たる事項について合理的な理解や議決権行使に当たって合理的な判断を得るための資料収集のために認められたことを示しており、かつ、合理的な理解ないし判断についての必要性は、平均的な一般株主を基準として判断されるべきである。したがって、この範囲を越えて会社の業務及び財産に関する一般的な情報開示を求めることはできない。右必要性を欠く質問は、商法237条の3第1項但書の「会議の目的たる事項に関せざるとき」もしくは「その他正当の事由あるとき」に該当するので、被告に説明義務はない。

〈2〉 そして、右説明義務の範囲を計算書類承認議案についてみると、営業報告書、貸借対照表、損益計算書の記載について、これらの記載に疑義などがあれば、附属明細書の記載を限度として説明すれば足り、附属明細書に記載されていない事項、特に会計帳簿などの調査により初めて知り得る事項は原則として説明義務の対象外である。そして、原告の提出した質問事項書の計算書類の承認に関する質問事項は、いずれも説明義務の範囲・程度を越えてなされたものであり、被告の前記一括回答はむしろ説明義務の範囲・程度を越えてなされたものと評価でき、説明義務違反はない。

〈3〉 役員選任議案については、本件総会の場において、株主からの全員重任の動議に基づいて採択されたものであり、被告提案の議案ではないから説明義務を論じる余地はない。

〈4〉 被告は、小会社であるから、参考書類規則の適用はなく、参考書類を作成する義務はないし、株式会社の貸借対照表、損益計算書、営業報告書及び附属明細書に関する規則(以下「計算書類規則」という。)45条3項により、被告の作成する営業報告書は同条1、2項所定の事項を記載する必要はなく、附属明細書も同規則46条、47条の限度で記載すれば足る。なお、同規則46条1項が記載を求める重要事項は通常の場合は特段存在せず、被告のような小会社にあっては、同条2項の会計方針を変更した場合にはその理由、及び同規則47条1項各号の事項を記載すれば足りるのである。

〈5〉 原告の計算書類承認議案に関する質問事項のうち、1ないし6の事項は、後記のとおり、いずれも計算書類の具体的な箇所を指摘したものでないばかりか、その内容の不備・矛盾を指摘したものでもない。また、平均的な一般株主が計算書類を承認するに当たって合理的な判断をするのに必要な事項でもない。

〈6〉 また、原告は、長年にわたり、被告株主総会に出席し、その取締役各人と面識を有し、同人らの氏名・年齢・職務執行状況などを知悉しているのであって、原告の質問は「ためにする質問」であり、被告取締役には説明義務はない。

(二) 一、1、2の質問について

(1) 原告の主張

〈1〉 バス部門の経費明細等の質問は、損益計算書の「営業損益の部」の「旅客運送事業営業費」及び附属明細書の「減価償却明細書」「旅客運送事業営業費の内訳書」に関するものであり、タクシー部門の経費明細等の質問は損益計算書の「営業損益の部」の「旅客運送収入」や「旅客運送事業営業費」及び附属明細書の「減価償却明細書」や「旅客運送事業営業費の内訳書」に関するものである。

〈2〉 被告の損益計算書の「営業損益の部」の「旅客運送収入」の項には、旅客運送収入としてタクシーの売上が、貸切運送収入としてバスの売上が区別して計上されているが、その費用については、「営業損益の部」の「旅客運送事業営業費」の項に区別されずに計上されており、附属明細書の「旅客運送事業営業費の内訳書」においても同様である。

〈3〉 同じ旅客運送事業であっても、バスは固定費部分が多く、タクシーは費用のほとんどが変動費であって事業の性格が異なり、かつ運輸行政上もバスとタクシーに区分した営業費明細表の作成・提出が求められているように、株主が被告の営業状態を把握するにはバス部門とタクシー部門の部門別の収支状況を知る必要があるし、このような事業の性格の異同に鑑みると、計算書類規則45条2項に基づき、営業報告書には部門別の収支を記載すべきである。

〈4〉 タクシー部門に関しては、タクシー共通乗車券が地域ごとに運営されていること、地域ごとの収支状況を把握しなければタクシー事業の実情が把握できないことから、営業所別の経費の内訳を質問したのである。なお、タクシー事業は、地域を越えての共通費が少なく、営業所ごと地域ごとの収支の把握が容易である。

〈5〉 タクシー事業は労働集約産業であるから、その人員配置・増減状況を知らなければ、営業の実情を把握できない。計算書類規則45条1項1号においても、営業所や従業員の状況を営業報告書に記載することが要求されている。

〈6〉 バス部門とタクシー部門の部門別収支・内訳が分からなければ被告の営業実態が分からないのであるから、計算書類規則46条1項に照らし、被告は附属明細書として部門別の営業費内訳表を作成すべき義務を負っており、被告が毎年作成しているバス部門の営業費内訳表や旅客運送事業等報告規則に基づき管轄運輸局長に提出すべき事業の種類ごとの一般自動車運送事業営業明細表は、附属明細書と評価さるべきものである。そうだとすると、原告の質問は、附属明細書の記載事項を尋ねるものということができ、被告取締役には説明義務がある。

(2) 被告の主張

〈1〉 右質問は、要するにバス部門の人員の配置状況や経費の明細、タクシーの営業所別の収支状況を説明せよというものであるが、これらは計算書類の具体的な箇所を特定した質問ではなく、原告主張の損益計算書の「旅客運送事業営業費」などにも関連しない。仮に、形式的に関連すると解しても、部門別の営業状況などは附属明細書に記載を要する事項ではなく、必要性を欠くものである。

〈2〉 計算書類規則37条ないし44条、46条ないし48条を見ても、原告主張のように損益計算書ないし附属明細書に部門別の費用を区分すべき旨の規定はない。

被告のような小会社の附属明細書の法定記載事項は、既に述べたとおりであり、旅客運送事業営業費の内訳書は附属明細書の記載事項に該当しない。

計算書類規則45条1、2項は小会社たる被告には適用がない。また、同条2項によっても、その年度の営業の状況ないし概況を、部門が分れていれば部門ごとに報告・記載すれば足るのであり、部門ごとの収支を記載することを要求してはいない。さらに、同条1項1号は部門別・事業所別の直接・間接人員の状況などを明らかにするように要求してはいない。

運輸省令である旅客自動車運送事業等報告規則に基づく営業報告書中の一般自動車運送事業営業費明細書は運輸省の監督を受けるため、同省令に従って作成されるもので、商法などの法令に従って作成されるべき附属明細書とは全く法的性質が異なる。バス部門の営業費内訳書は、バス部門の概況を把握する目安として作られたものであり、内容的にも附属明細書の法定記載事項にも該当しない。

〈3〉 被告は、中型観光バスで観光事業を行なっているが、タクシー事業を兼業しており部門別の独立採算制をとっておらず、乗務員にはバス、タクシー双方の乗務を兼任する者もいるなど直接人員や部門固有の経費を分別することは困難である。行政当局に提出する報告書は一定の基準で分別するようになっているが、あくまで行政の基準に過ぎない。

〈4〉 過去の株主総会における説明により、原告は営業所の配置状況を知っていた。

(三) 一、3、(一)、(二)の質問について

(1) 原告の主張

〈1〉 一、3、(一)の質問は損益計算書の「営業損益の部」の「一般管理費」や、「営業外損益の部」の「営業外収益」の「雑収入」及び附属明細書の「雑収入の内訳」に、同(二)の質問は、損益計算書の「雑収入」、附属明細書の「雑収入の内訳」及び「地代家賃の内訳」に関するものである。

〈2〉 右質問は、以下の理由から、被告と島根日交、クラウンタクシー、日交整備、日交商事、日交旅行社、日交工芸との間において、これら関連会社の負担すべき諸経費を被告が負担することにより、被告の損失において右関連会社に不当な利得を与えている可能性があり、被告の運営状況の適否の判断には関連会社間での経費分担などを知ることが不可欠であり、その具体的な内容の説明を求めたものであって、被告取締役には説明義務がある。

ア 被告は右関連会社の株式を保有しておらず、一方、田川の支配下にある島根日交、クラウンタクシー、日交整備は、合計して被告の発行済株式の約65パーセントを保有している。

イ 被告と島根日交は同じ松江地区で営業しているにもかかわらず、島根日交のタクシー1台当たりの所得額が被告のそれの3.05倍にも上る。

ウ 被告と島根日交、クラウンタクシーは宣伝や配車業務及びこれに伴う電話の体制などを一体的に行なっている。

〈3〉 被告が原告の管轄下にあったのは昭和47年5月までであり、それ以前においても情報の提供は必ずしも十分なものではなく、関連会社との経費分担などについて原告が知悉していた事実はない。

〈4〉 被告と関連会社との経費分担について、島根日交及びクラウンタクシーから徴収している経費負担金180万円(附属明細書の「雑収入の内訳」に計上)及び被告事務所の管理部門の事務員の帰属が問題となるところ、被告取締役は、右経費負担金180万円は女子事務員1.5人分と説明したが、右金180万円の金額は数年来変わっておらず、また、島根日交とクラウンタクシーに関する事務量が女子事務員1名で賄える程度のものかにも疑問がある。

〈5〉 右経費負担金180万円以外に、被告と関連会社間でどのような経費分担が行なわれているかも不明である。

〈6〉 被告取締役が第37期定時株主総会において、経費負担金180万円について行なった説明には矛盾があった。

〈7〉 一、3、(一)の質問が、経費負担金180万円を指すものであることは、澤廣行の補充質問によって明確になっている。

(2) 被告の主張

〈1〉 一、3、(一)の質問は、関連会社との経費分担に関し、具体的にいかなる費用について、どの会社にいくら負担させているかというものであり、計算書類の具体的な箇所を特定した質問ではなく、質問自体から計算書類のいかなる箇所に関する質問かも判明しないので、被告取締役に説明義務はない。仮にあるとしても、抽象的な質問であるから本件総会における程度の回答で足る。

〈2〉 原告は、一、3、(一)の質問が、損益計算書や附属明細書の記載事項に関連すると主張するが、原告主張の箇所にどのように関連するのかは明らかにされていない。

〈3〉 原告は、被告が関連会社の負担すべき経費を負担することによって、被告の負担において関連会社に不当な利得を与えている可能性を主張するが、そうであればそれを基礎付ける事実関係を指摘して質問すべきである。

〈4〉 原告が被告の関連会社に対する利益供与を疑わせる事情として主張する事実は、いずれも失当である。

イ 田川が、島根日交、クラウンタクシー、日交整備など4社の代表取締役を兼ね、被告が筆頭会社として関連会社とともに日交グループとして島根県下で活動しているのは、先代社長の時代からであり、問題とならない。

ロ 被告は、全県下に営業所を抱えているところ、県西部の営業所がどうしても成績が上がらないため成績の上がりやすい県東部でのみ営業している会社に比べてタクシー1台当たりの所得が低くなるという事情が存在する。

ハ 被告が島根日交及びクラウンタクシーと一体的に宣伝を行なっている事実はない。また、配車業務は3社それぞれ専属の電話、従業員を用いて行なっているが、ある会社に電話注文が来ても配車に余裕がないとき、他の会社に代車を要請して顧客の確保を確実にする体制を採っている事実はある。

〈5〉 一、3、(一)の質問が、経費負担金180万円に関するものであれば、それを明確にして質問すべきである。

右経費負担金に関しては、第37期にも質問を受け、その際被告取締役は、被告の従業員に島根日交、クラウンタクシーの経理事務を担当させていたのでその人件費の趣旨であると回答したところ、安いとの批判や広告費の負担について指摘を受けたので、第38期には、右従業員を各社に移籍し、人件費は右社の負担とした上で、島根日交、クラウンタクシーの管理部門の仕事を被告の執務室で行なっていたためその事務諸経費として金60万円、被告の出しているNTTの電話帳の広告欄に右2社の名前を掲示していたのでその分の負担として金120万円の計金180万円の経費負担金を残したのである。このことは、第38期定時株主総会において説明しており、本件総会においても同様の趣旨で回答したのである。

〈6〉 一、3、(二)の質問は、本件計算書類の承認決議に具体的な関連性のある質問ではない。

(四) 一、3、(三)の質問について

(1) 原告の主張

〈1〉 右質問は、損益計算書の「営業損益の部」の「旅客運送事業営業費」並びに附属明細書の「旅客運送事業営業費の内訳書」、「貸付金の内訳」、「受取利息の内訳」及び「未払金の内訳」に関するものである。

〈2〉 被告は島根日交、クラウンタクシーに対し車庫を提供しているほか、日交整備に車両整備を請け負わせ、日交商事から燃料を購入し、日交旅行社から旅行斡旋を受けて斡旋手数料を支払い、日交工芸に看板などの製作を請け負わせている。

そして、右各社はいずれも田川が代表取締役に就任しているから、被告と右各社との間の取引は商法265条1項後段に該当するので、計算書類規則47条1項10号により、その取引の明細を附属明細書に記載することを要する。

にもかかわらず、被告会社の附属明細書には関連会社との取引について一切記載がなかった。

〈3〉 被告が原告の管轄下にあったのは昭和47年5月までであり、それ以前においても情報の提供は十分ではなく、被告と関連会社の資本関係も変化が生じており、従前の形態の踏襲のみを理由に説明義務を否定することはできない。

(2) 被告の主張

〈1〉 右質問は抽象的で具体的に計算書類の箇所を特定してなされたものではなく、質問として特定性に欠ける。また、日交商事、日交整備、日交工芸、日交旅行社などとの取引に関する質問であれば、附属明細書にも記載されていない経費の明細を尋ねるもので、会議の目的に実質的に関連性がなく、被告取締役に説明義務はない。

〈2〉 そもそも右4社は被告と取引をするために必要があって設立されたものであり、右取引は、原告の代表取締役であった澤春蔵が被告及び右4社の取締役をしていた当時から、被告の利益確保に寄与するものとして行なわれてきたものであり、それが澤巌の時代を経て、経理処理も含め現在まで踏襲されてきたものである。したがって、被告は当初より取引内容を附属明細書に記載しておらず、このような会計処理は長年の慣行として行なわれてきたものである。

計算書類規則47条1項10号により開示の対象となるのは、商法265条にいう取引であり、取締役の裁量により会社に不利益を与える可能性のないものは含まれない。右4社との取引はいずれも業界の相場が形成されており、被告と右4社との取引は相場並かそれ以下で反復継続して行なわれており、形式的には自己取引に当たるが、右4社の設立経過や取引の経過・実態をみれば、被告に実質的な不利益を与えるものではなく自己取引に該当しない。

〈3〉 原告は、昭和51年ころから被告の会計帳簿を閲覧・謄写しており、右記載から取引内容を把握してきたものである。

〈4〉 右取引は、相当多数回にわたり、その取引内容の明細を株主総会の場で説明するのは多大な労力と時間を要することになり相当でない。原告は、会計帳簿により右取引の内容を知り得るのであるから、内容に不備があればそれを指摘して説明を求めるべきである。

〈5〉 なお、被告、島根日交、クラウンタクシーが相互に不動産を無償で使用してきたのは、澤春蔵時代からのことであり、原告も知悉している事実である。

(五) 一、4の質問について

(1) 原告の主張

〈1〉 右質問は、損益計算書の「営業損益の部」の「旅客運送事業営業費」、「営業外損益の部」の「営業外収益」の「雑収入」、附属明細書の「雑収入の内訳」、「旅客運送事業営業費の内訳書」の「一般管理費」の「雑費」に関するものである。

〈2〉 タクシー代行収入については附属明細書の「雑収入の内訳」に記載され、その経費は一般管理費の雑費の項に計上されていると、第37、38期定時株主総会において田中が説明した。そこで、原告が第38期の総勘定元帳の「一般管理費」の雑費の項からタクシー代行の経費を抽出し代行収入との差を求めると、タクシー代行業の収支は黒字となった。しかるに、被告取締役は第38期定時株主総会において「10パーセント強の持出しになっている。」と答弁した。

また、第39期においてもタクシー代行の収支は黒字であるのでその当否を質問したのである。これに対し、被告取締役はやはり持出しであると答弁しながら、右矛盾について合理的な説明をしなかったのであるから、説明義務違反がある。

(2) 被告の主張

〈1〉 右質問は計算書類の具体的な箇所を特定した質問ではない。収入については、附属明細書の「雑収入の内訳」欄に明記されており(この記載事項は小会社の法定の記載事項ではなく、任意的記載事項であり、説明義務の範囲外である。)、取立てて説明を要しない。支出については附属明細書にも記載がなく(附属明細書の「旅客運送事業営業費の内訳書」の「一般管理費」の「雑費」の項は経費元帳の記載だけを集計したもので、代行の経費の明細は右記載部分を含め他の箇所にも記載がある。なお、右記載自体も、小会社の法定の記載事項ではなく任意的記載事項である。)、右質問は経費の明細を尋ねるに等しく、会計帳簿の調査により初めて知り得る事項であるから、被告取締役に説明義務はない。

〈2〉 原告は、原告の計算によれば帳簿上利益が出ているので、被告取締役の第38期における回答に矛盾があると主張するが、原告が帳簿上利益があると考えたのは経費の把握が不正確であるからである。なお、田中は第38期の総会において、代行の経費は「主として経費元帳の一般管理費の雑費」に記載されているとの趣旨の回答をしたのである。

〈3〉 第38期の収支状況は、第39期の計算書類承認議案に関連せず、説明義務はない。

(六) 一、5、(一)の質問について

(1) 原告の主張

〈1〉 右質問は、貸借対照表の「有形固定資産」の「構築物」及び附属明細書の「不動産の内訳」、「減価償却明細書」に関するものである。

〈2〉 被告の決算書附属明細書に資産計上されている緑化施設などについて右附属明細書には位置・内容・取得金額・取得年月日などの記載がなく、第38期定時株主総会において原告らの質問に対し、田中は設置場所・施設の内容については説明せず、取得年月日については減価償却明細書の記載と一致しない説明を行なった。そこで、原告らは、右回答の不足・不備を踏まえて質問を行なったのである。右質問は、附属明細書の減価償却明細書の記載事項に関する質問であるから被告取締役に説明義務がある。なお、右減価償却明細書は、実質的にも計算書類規則46条1項に基づく附属明細書である。

〈3〉 被告は、建設仮勘定に資産として計上したものについて、20年間以上も他人名義のまま放置するなど、問題の多い資産管理を行なってきたのであり、このような取締役の責任を問題とするような場合には、株主において資産管理が適正か否かを判断するため、個々の資産の明細を知ることが必要である。したがって、緑化施設に関する原告の質問に対し、被告取締役に説明義務がある。

(2) 被告の主張

〈1〉 右質問は計算書類の具体的な箇所を特定した質問ではなく、その内容の不備・矛盾を指摘したものでもない。

〈2〉 被告作成の科目内訳表のうち、「減価償却明細書」の記載は附属明細書の法定記載事項ではなく、任意の記載事項であるから、取締役の説明義務は及ばない。すなわち、計算書類規則47条1項3号が記載を要求しているのは「固定資産の取得及び処分並びに減価償却費の明細」であり、固定資産の種類ごとに記載すれば足り個々の固定資産ごとの記載は要求されていない。したがって、右「減価償却明細書」の記載には取締役の説明義務は及ばない。

〈3〉 右質問は、第38期になされた質問のほぼ繰り返しであるところ、被告取締役は第38期定時株主総会において当該物件の位置、内容、取得金額、取得年月日を説明しており、原告らからの指摘を受けて再調査した結果、その内容も正確なものであったから、これを引用して回答したものであり、回答として十分である。

(七) 一、5、(二)、(三)の質問について

(1) 原告の主張

〈1〉 一、5、(二)の質問は、貸借対照表の「有形固定資産」の「土地」の項及び附属明細書の「不動産の内訳」に、(三)の質問は、貸借対照表の「有形固定資産」「建設仮勘定」及び附属明細書の「建設仮勘定の内訳」に関するものである。

〈2〉 島根県簸川郡大社町大字杵築東字五反配115番1の土地の登記名義は安田充宏のままになっており、被告の所有権が確保されている状態とはいえず、ほかにも「建設仮勘定の内訳」に計上されている大社町杵築東の町道真名井矢野線より西側の土地のように売買契約後20年以上経過しながら農地法5条の転用許可が下りず、被告への所有権移転登記が経由できない状態の土地がある。

〈3〉 島根県簸川郡大社町大字杵築東字五反配115番1の土地は、附属明細書の「不動産明細表 土地の部 No.2」の40番に記載されている「簸川郡大社町杵築東」「雑種地」「55,931.20平方メートル」の中に含まれており、しかも土地勘定に計上されていながら、前記のとおり被告名義の所有権移転登記が経由されていないのであるから、これらの解決について被告取締役に説明義務がある。

(2) 被告の主張

このような土地に関する処理方針や有効利用の方針、固定資産税賦課状況の調査結果、土地の出雲大社に対する売却交渉の状況・見通しなどに関する質問は、いずれも計算書類の承認決議におよそ関係のないことであり、必要性のない質問である。田中は、議事の円滑進行のため前記のとおり回答しており、それで十分である。

(八) 一、6の質問について

(1) 原告の主張

〈1〉 被告は別訴事件に補助参加しているのであるから、右質問事項は、計算書類規則45条1項1号の「会社の現況」ないし同条1項5号の「会社の対処すべき課題」として営業報告書に記載すべき事項であるが、被告の第39期営業報告書には記載がなかった。

〈2〉 一、6、(二)の質問は、損益計算書の「営業損益の部」の「旅客運送事業営業費」の「一般管理費」及び附属明細書の「旅客運送事業営業費の内訳書」の「一般管理費」に関するものである。

被告取締役個人が被告である別訴事件に被告が補助参加した場合には、取締役個人が負担すべき訴訟関係費を被告に負担させる危険がある。このことは、訴訟代理人との委任契約が被告と取締役個人で各別に締結されていても同じである。したがって、右質問事項は計算書類規則47条1項10号に照らし、附属明細書に記載すべき事項であり、被告取締役には説明義務がある。

〈3〉 一、6、(三)の質問は、被告の附属明細書の「建設仮勘定の内訳」に計上されている島根県簸川郡大社町大字杵築東所在の土地のうち、町道真名井矢野線より西側の土地につき、田中が第37期定時株主総会において「十中八、九うちのものになりません。」と回答し、他方別訴事件においては右土地の所有権は被告に帰属していると矛盾した主張をしているので、いずれが被告の認識と一致するのかを質問したものである。

右土地は、被告の資産として附属明細書の建設仮勘定に計上されており、これが真に被告に帰属しているかについての理解は貸借対照表の承認決議をなすにつき重要である。

右のような矛盾した言動につき明確な回答をしなかった被告取締役には説明義務違反がある。

〈4〉 一、6、(四)の質問は、一、6(三)の質問と同様従前の株主総会における説明と別訴事件における被告の主張に矛盾があるため質問したものであり、同様に被告取締役には説明義務違反がある。

(2) 被告の主張

〈1〉 小会社たる被告の営業報告書の記載内容は任意であるし、訴訟係属の事実は原告はじめ被告株主全員が知っている。

〈2〉 一、6、(一)の質問は、被告会社が別訴事件に補助参加することの理由を詮索するものであり(右土地については、出雲大社との間で売却交渉中であり、前問で回答している。)、本件計算書類の承認決議に必要はない。

〈3〉 一、6、(二)の質問は、計算書類の具体的な箇所を特定してなされたものではなく、附属明細書にも記載のない事項で経費の明細を尋ねるに等しく(訴訟関係費の中心は補助参加人の訴訟代理人に支払う着手金であるが、被告会社はこれを負担していないので会計帳簿にも記載していない。)、決議事項に実質的にも、形式的にも関係しない。

別訴事件において、被告取締役は個人として木村修治弁護士を、被告は平山茂弁護士を各別に委任し、それぞれ弁護士報酬を支払うのであるから、利益相反行為はない。また、被告が右訴訟関係費を実際に支払っていれば経費の支出として経費元帳に記載するが、それに関する質問は附属明細書の記載の範囲を越えているから説明義務はない。

〈4〉 一、6、(三)の質問は、決議事項におよそ関連せず、また、右訴訟事件の係属中に当の相手方たる被告や取締役に質問するにはふさわしくない。

〈5〉 一、6、(四)の質問は、本来取締役に説明義務のない事項である。

(九) 一、7の質問について

(1) 原告の主張

〈1〉 右質問は、被告の配当政策についての質問であり、利益金処分案に関するものであって、参考書類規則3条1項5号によれば、利益金処分の「議案作成の方針」すなわち配当政策を参考書類に記載しなければならず、右記載事項は小会社においても取締役に説明義務がある。

〈2〉 被告の配当性向は年々低下の傾向を示しており、他方利益剰余金を積み立てた別途積立金は金3億4000万円に達している。しかも、原告は、第38期定時株主総会においても配当政策について質問し、田川は「無借金になったら増配を考えたい。」と回答しており、第39期は実質的に無借金状態になったのであるから、配当を据え置くことは配当政策の変更とも考えられ、被告取締役はこれらのことを踏まえた回答をする義務があった。

(2) 被告の主張

〈1〉 被告は、右質問に対し、配当性向を据え置いた理由は特別にないこと、利益の株主還元については継続的安定配当に努力するので宜しく理解を賜りたい旨回答しているので、必要な回答を行なっており被告取締役に説明義務違反はない。

〈2〉 また、田川は、借金がなくなり経営体質がさらに改善されれば増配も考えたいという見解を披瀝したまでであり、被告は株主に対する継続的安定配当に努力するという配当政策を変更したものではない。なお、第39期においても借入金は存在し、これを実質無借金とみるのかどうかは見解の相違である。

(一〇) 二、1の質問について

(1) 原告の主張

〈1〉 右質問は、被告の経営責任を明確にするための質問であり、被告取締役は、経営の基本理念に関する質問に対しては相応の説明を行なう義務がある。

〈2〉 別訴事件における尋問の結果、被告の島根県簸川郡大社町大字杵築東所在町道真名井矢野線西側土地の問題に関する担当者ないし責任の所在が不明確であることが判明した。

〈3〉 田川は、本件総会の時点において70歳前後であり、不測の事態に備える後継体制を準備しておくべきである。

(2) 被告の主張

右質問は、いずれも議題と関連性がない。

(一一) 二、2ないし4の質問について

(1) 原告の主張

二、2の質問は、被告の従前の取締役5名のうち田川以外の取締役について年齢略歴など基本的事項が明らかにされていないため、取締役候補者について具体的事項の説明を求めたものであり、取締役選任の判断に当たり、候補者の従前の職務執行状況が重要であることや参考書類規則3条1項1号が定める参考書類の記載事項などに鑑みても、被告取締役に説明義務がある。

(2) 被告の主張

〈1〉 二、2の質問のうち、(三)は明らかに議題と関係がなく、(一)、(二)、(四)に関しては、原告も、その代表取締役であった澤春蔵、巌らが昭和48年まで被告の取締役をしており、これまでも株主総会に出席し、取締役各人と初対面の時には名刺を交換して挨拶を交わし、その選任に賛成してきた経過があるのであり、第37期定時株主総会においては取締役の経歴、業務内容、常勤・非常勤の別などについて説明を受けるなど、同人らを知悉していたのであるから、被告が行なった程度の説明で十分である。

〈2〉 二、3、4の質問は、議題と関連性がない。

3  原告の質問権行使は権利濫用に当たるか

(一) 被告の主張

本件総会において、原告主張の質問権の行使の事実が認められるとしても、それは、以下の理由から権利の濫用に該当し、商法237条の3第1項但書の「その他正当の事由あるとき」に該当し、被告取締役に説明義務違反はない。

(1) 原告の提出した質問事項書記載の質問は、いずれも被告取締役において説明する義務のないものである。

(2) 原告は、関連会社との間の取引のいきさつや協定内容を熟知していたし、また、計算書類・会計帳簿類の閲覧謄写や過去の株主総会における説明などにより、被告の経理の概況や取締役の経歴などについて十分な知識を有していた。にもかかわらず、原告は、膨大な質問事項書を事前に提出してその準備に当たらせ、株主総会においても、被告の対応が良心的であることを奇貨として、不必要な質問により株主総会を長時間化させる実績を作って(例えば第37期では6時間、第38期では9時間を要している。)、被告取締役に多大な労力・負担をかけてきたものであって、本件質問権の行使は被告の経営混乱ないし困惑を企図し、あるいは、田川に対する嫌悪感による辞任要求を目的とする悪意のものである。

(3) 被告の営業成績が前年度より急激に悪化したなど、合理的な説明を必要とする事情はなく、むしろ、被告は収入増を実現している。

(二) 原告の主張

(1) 本件総会にかかった時間のかなりの部分は、被告取締役の回答拒否に対し、澤代理人と澤廣行が回答ないし回答拒否の理由の説明を求め、被告取締役がこれを拒むという押問答に費やされているのであって、原告らが意図的に本件総会の議事を長時間にわたらせて混乱させたとの主張は誤りである。

(2) 本件総会における原告らの質問事項は、いずれも取締役が把握しているべき事項であって、回答のために特別な調査を要する性質のものではない。

(3) 原告が、会計帳簿などの閲覧により被告の経理状況を熟知していた事実のないことは既に述べたとおりである。

4  裁量棄却の主張

(一) 被告の主張

説明義務の範囲に関する判断は、最終的には司法判断に委ねられるべきであるが、一次的には議長、二次的には各取締役にあるのであって、田川、田中が本件総会において説明義務の範囲外であると答弁したのは右の趣旨で、被告の健全な運営と全株主の利益を考えてのことであり、会社を詐害し、個人の利益を図る意図は存在せず、その判断も著しく合理性を欠くものではなかったから、仮に決議の方法などに違法とされる部分があったとしても、商法251条の裁量棄却が相当である。

(二) 原告の主張

被告と関連会社及び田川や原告を除く被告会社のその他の株主との関係は既に述べたとおりであり、田川や田中は田川やその支配する関連会社の利益のみを考えて回答を拒否したのである。このように、被告取締役は、当然に取締役の説明義務の及ぶ事項について、特段の事情もなく説明を拒否したのであるから、右説明拒否は重大で決議に影響を及ぼすことは明らかであり、裁量棄却の余地はない。

第三  争点に対する判断

一  原告の質問権行使の有無(争点1)について

1  証拠(甲1、乙6、証人澤、同田中、弁論の全趣旨)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告らは、本件総会に先立ち、被告に対し、本件質問事項書を送付し、右書面は平成元年5月3日に被告に到達した。

(二) 澤代理人及び澤廣行は本件総会に出席し、本件総会の冒頭において、澤代理人が田川に対し本件質問事項書の取扱方法を確認し、山本義二三による営業報告書の報告と計算書類の報告、被告監査役原良男の適法意見の陳述の後、田川が、「質問事項がまいっておりますので簡単に朗読させます。」と述べ、澤代理人が朗読するのかと尋ねたのに対し、「一応株主さん、知らん人がありますので。」などと答えた。

(三) 山本が本件質問事項書を朗読した後、田川は、「多岐にわたって、たくさんの質問が来ておりますので、これを一括して田中専務よりご回答、ご説明致させます。」と述べ、澤代理人が、本件質問事項書の「頭から順番にやって頂けるのでしょうか。」と述べたのに対し、田中が、「はい、この記載どおりにやらして頂きます。」と答えた上、各質問事項について一括して、説明・回答を行なった。

(四) 澤代理人及び澤廣行は、田中の説明中、もしくは説明後に多くの補足質問を行なったり、回答が不十分であるとしてさらなる回答を求め、これに対し、田中らは説明義務の範囲外であることを理由として回答を拒否することもあった。

なお、本件質問事項書以外に、他の株主から提出された質問状などはなかった。

2  以上認定の事実によれば、原告らは事前に本件質問事項書を提出したのみではなく、本件総会に出席し、本件質問事項書の取扱方法を確認したのに対し、議長である田川が被告担当者に指示してこれを朗読させた上、田中をして一括回答させたのであり、澤代理人と田中との前記やりとりや他に質問株主はいなかったことなどに照らし、右一括回答はまさに原告らの質問に対する回答として行なわれたもので、これを報告事項の追加とみるのは相当でなく、一連の経過を全体としてみれば、原告らが本件質問事項書に記載の質問及び口頭での補足質問を含め質問権を行使したと認めることができる。確かに、澤代理人や澤廣行は、自ら質問事項書を朗読したり、全ての質問について口頭で発問したわけではないが、これはあくまで、本件総会において田川が採用した議事進行の方法に従い、原告らに代わって被告担当者が質問事項書を朗読したということに過ぎず、このことをもって原告らが質問権を行使しなかったとみることはできない。

二  説明義務の総論的主張(争点2の(一))について

1  株主総会の権限は、株式会社の最高の意思決定機関として決議により会社の意思を決定することにあり、商法237条の3に規定する取締役などの説明義務の趣旨は、株主が会議の目的事項について賛否を決するために合理的判断をなすに必要な情報を提供することにあると解される。したがって、取締役などの説明義務は、合理的な平均的株主が、会議の目的事項を理解し賛否を決して議決権を行使するに当たり、合理的判断をするのに客観的に必要な事項について、そのために必要な範囲において認められるものと解するべきであり、質問事項が議題の合理的な判断に必要な事項であるかどうか、取締役が議題の合理的な判断に必要な程度に説明をしたかどうかの判断は、質問株主や説明した取締役などの主観を基礎にしてはならず、合理的な平均的株主の立場を基準に客観的に判断されるべきである。但し、質問株主が平均的株主より多くの知識を有していることが明らかな場合には、そのことを前提に説明を簡略化して差し支えないと解する。

2  これに対し、原告は、原告と被告との間に密接な関係があること、被告会社が閉鎖会社であり、その株主構成が、原告らと被告を支配する田川一派とに分かれており、原告らは少数派であるものの被告の発行済み株式の約20.8パーセントを有していることなどを理由として、被告には平均的株主は存在せず、原告らを基準として説明義務の範囲を画するべきことを主張する。右主張の趣旨は必ずしも明らかではないが、原告主張のような事情があれば、前記1の範囲を越えて説明義務が認められるべきであるとか、説明義務の範囲について原告らの主観をも基礎とし、原告らが納得するまで説明すべきであるなどという主張であれば、既に判示した説明義務の趣旨に照らし採用することはできない。もし、説明義務の範囲が個々の株主との間で個別的・相対的に判断されるのであれば、その判断が極めて困難となり、合理的・円滑な議事運営が困難となる。

3  そこで、以下、原告が本件総会でなした個々の質問に対する被告取締役の応答について、説明義務違反があったか否かについて検討する。

三  計算書類承認議案に関する説明義務違反の有無(争点2の(二)ないし(九))について

1  計算書類承認決議は、会社の計算が正当なものであると認めこれを法的に確定するとともに、利益の配当及び準備金の積立・取崩をする決議であり、株主はこれを通じて取締役を監督する機会を得ることにもなる。計算を正当なものと確定するためには、株主総会において会社の概況が明らかにされなければならず、合理的な平均的株主が会社の概況を正確に理解し、議案に対する賛否の合理的判断をなすに必要な情報のみが議題と実質的に関連するものとして説明義務の対象となる。

そして、説明義務の範囲は、商法が一般的に開示を要求している事項を一応の基準と考えることができ、商法及び計算書類規則に基づき作成される貸借対照表、損益計算書、営業報告書及び附属明細書の記載事項や参考書類規則により大会社の招集通知に添付すべき参考書類の記載事項が一般的な開示事項に当たるものと解することができる。したがって、原則としては右各書面に記載さるべき事項が説明義務の範囲を画するものと考えられ、細かな計数や会計帳簿などを調査して初めて知り得るような事項は原則として説明義務の範囲外にあると解するべきであるが、他方、計算書類承認決議には、取締役の監督という側面もあることは既に説示したとおりであり、会社の個々の財産につき、取締役の違法行為の存在が疑われるべき相当な事情がある場合には右範囲を越えた説明を必要とする場合があると解するべきである。

なお、被告は小会社であるため、計算書類規則の一部の規定及び参考書類規則については適用がないが、右記載事項は商法などが一般的に開示を要求する事項であるから、小会社においても説明義務が及ぶと解するべきである。また、原告は、有価証券報告書を引合いに出して説明義務の範囲について主張するが、商法その他の規定が特に附属明細書の記載事項を定めていることから総会に提出されるべき計算書類の明細としては右の事項で十分であると解することができ、それ以上に有価証券報告書の記載事項を参考にして説明義務の範囲を考える必要はない。  2 一、1、(一)、(二)の質問について

(一) 一、1、(一)の質問について

(1) 右質問にいう、「直接人員」、「間接人員」の趣旨は必ずしも明確ではないが、運転手など車両に乗務する従業員や点呼・出庫を行なう従業員を「直接人員」といい、その余の従業員を間接人員というものと思われる。

(2) しかるところ、旅客運送事業を営む会社のバス部門の従業員のうち乗務員などとそれ以外の従業員の人数や前期との増減状況などは、通常会社の概況を理解し、計算書類承認決議の賛否を決するための合理的判断に必要な情報であると解することはできない。この点についての原告の主張は必ずしも明らかではないが、計算書類規則45条1項1号(小会社には適用なし。同条3項)が従業員の状況について営業報告書に記載することを要求しているとしても、部門別・業務内容別の記載までを常に要求するものとは解することはできず、特段の事情のない限り、取締役等の説明義務は及ばないと解されるところ、本件においてその特段の事情を肯認し難い。

(二) 一、1、(二)の質問について

(1) 右の質問が必要性の要件を満たすものであるかについて、原告は、バスとタクシーは同じ旅客運送業務であるが、前者の経費は固定費部分が、後者の経費は変動費部分がほとんどを占めていること、運輸行政上両部門を区別して収支の報告が求められていることなどを理由として、被告の営業状態を把握するためには部門別の収支状況を知る必要があり、計算書類規則45条2項(小会社には適用なし。同条3項)が部門別の営業の経過及び成果を記載することを要求していると主張する。

(2) しかしながら、旅客運送事業を営む被告のバス部門を他の部門から区別してその経費の明細を知ることが、通常会社の概況を理解し、計算書類承認決議の賛否を決するための合理的判断に必要な情報であると解することはできない。

もっとも、計算書類規則45条2項が、営業部門別に当該年度における営業の経過及び成果を営業報告書に記載することを要求していることは原告主張のとおりであるが、右の「営業の経過及び成果」とは、生産、受注、仕入れ、販売などの経過及び実績を意味し、これを概括的に明らかにすれば足り、経費の明細や前期との増減の状況を明らかにすることまでは要求していないものと解される。そして、被告作成の営業報告書には、バス部門及びタクシー部門の各営業の概況が記載され、また損益計算書には両部門の収入が個別に記載されており、同書面及び旅客運送事業営業費の内訳表には両部門を区別してはいないものの、費用の総額及び内訳が記載されており、(甲22、乙2)、さらに、田中はバス部門における支出増となった額及び前年の支出に対する増加の割合を回答しており(前記第二、一、5、(一)、(1))、バス部門の支出総額の概算は容易に算出できるのであり、原告らにおいても貸借対照表や損益計算書の記載内容について疑義を有していたわけではないのであるから(証人澤)、部門別の営業の経過及び成果は明らかにされていたものといえる。

しかるところ、原告主張のようにバス部門とタクシー部門とで事業の性格が異なる部分があるとしても、その一事をもって経費の明細まで知らなければ議題について合理的判断をなしえないということはできないし、また、バス部門の営業費の内訳が計算書類規則46条1項により附属明細書に記載することを求められている事項であると解することもできず、右規定を根拠に右事項が説明義務の範囲内に属するということはできない。さらに、運輸行政上バス部門とタクシー部門とを個別に報告することが要求されているとしても、そのことが直ちに説明義務の範囲を画するものではない。

仮に、従前、被告取締役において、今後バス部門とタクシー部門のそれぞれの営業費を区別して説明すると発言したことがあるとしても、右発言が将来にわたって被告の取締役を拘束し、右のような説明をしないことが直ちに説明義務違反になると解することはできない。

よって、右質問につき被告取締役に説明義務違反があるとは認められない。

3  一、2の質問について

(一) 一、2、(一)の質問について

被告取締役は、原告らの質問に応じて、タクシー部門の13か所の営業所の配置状況について第37期定時株主総会の席上もしくは回答を補足する書面をもって説明しており、原告らにおいてもその内容を知っていたのであるから(甲11、12、乙23の1、2、証人澤、同田中)、本件総会における具体的な説明義務の範囲を論じるまでもなく、被告取締役において、営業所の配置状況を説明する必要はない。

(二) 一、2、(二)の質問について

(1) 原告は、タクシー部門に関しては地域ごとの収支状況や、労働集約産業であるから人員配置状況などを把握しなければタクシー事業の実情が把握できないし、計算書類規則45条1項1号が営業報告書に営業所や従業員の状況を記載することを要求していることからも、右質問事項につき説明義務がある旨主張する。

(2) しかしながら、旅客運送事業を営む被告のタクシー部門について営業所別に本件質問事項書記載の各事項を知ることが、通常会社の概況を理解し、計算書類承認決議の賛否を決するための合理的判断に必要な情報であると解することはできない。すなわち、原告らは、貸借対照表や損益計算書の記載について特に疑義を有していたわけでもなく(証人澤)、結局原告らの質問は、会社の概況の把握を越えて営業活動の細部について質問するものであり、このような点にまで取締役の説明義務は及ばない。また、島根日交など関連会社との間での不正の可能性も質問の動機に含まれているようであるが、右可能性も「何かあるかもしれない。」という程度の認識を根拠にするものであり(証人澤)、右質問につき説明義務を肯定する根拠とはなり得ない。計算書類規則37ないし48条などの規定も、各営業所について質問事項のような細かな記載を常に要求しているものと解することはできず、被告取締役の説明義務を基礎付けるものではない。

4  一、3の質問について

(一) 一、3、(一)の質問について

(1) 経費負担の状況など

〈1〉 証拠によれば、以下の事実が認められる。

被告取締役は、第37期定時株主総会において、被告が島根日交及びクラウンタクシーの各社から徴収している経費負担金180万円について原告から質問があったので、右金員は、島根日交及びクラウンタクシーの経理・総務・企画統計などの管理業務を被告が一括して行なっていたので、その経費として女子社員1.5人分の人件費を負担させており、それが経費負担金180万円である旨説明した。これに対し原告らから安過ぎるとの批判や、NTTのタウンページやハローページの広告欄に被告及び島根日交、クラウンタクシーなどが一緒に掲載されていることにつき、その費用に関する疑問が出た。そのため、被告は、島根日交、クラウンタクシーの管理業務を行なっている従業員2名ずつを各社に移籍し、それぞれの人件費はそれぞれの会社で負担させることとし、同時に、右広告費として各金120万円、島根日交やクラウンタクシーの管理業務を被告の事務所において行なわせていることから事務消耗品などの雑費として各金60万円を負担させることとして、経費負担金180万円はそのまま残す取扱いをなし、第38期定時株主総会において、その旨田中が説明した。(甲14、18、25、証人田中、弁論の全趣旨)

これに対し、証人澤は、田中より右のような説明を受けたことはないと証言し、甲31にも澤代理人の同趣旨の証言が記載されているが、他方同証人は、右経費負担金に関する説明が第37期と第38期で変わったことや第37期において同証人自身が経費負担金に関する質問に引続き電話帳に掲載された広告の費用負担について質問した旨証言し、また、澤代理人が本件総会において、第38期定時株主総会で庶務の従業員の所属が異なることを聞いたことを前提とする発言をしていること(甲1の58頁)、甲31記載の澤代理人の証言にやや曖昧な部分のあること及び反対趣旨の証人田中の証言に照らしたやすく信用できない。

〈2〉 また証拠によれば、被告は、少なくとも平成3年11月11日ころまで、BSS山陰放送ラジオに、男性の声で「島根県下に16の営業所、皆様の暮らしに役立つタクシーの日本交通の提供でお送りします。」と前置し、その後電話の擬音で始まるコマーシャルを流していたが、右コマーシャルは、被告が昭和50年ないし55年ころ、それまで16か所あった営業所を13か所に統廃合する以前から流されており、その中で被告の指示によるのは電話の擬音以降の部分であり、男性の声により「島根県下に16の営業所」と謳う部分は被告が指示したものではないことが認められる。(甲29の1、2、証人田中)

したがって、「島根県下に16の営業所」と謳うコマーシャルが島根日交やクラウンタクシーをも被告の営業所として宣伝する目的に出たものとは認められない。ちなみに、仮に主観的にそのような目的があったとしても、客観的に右の謳文句が右両社のために宣伝効果を有するとは思われない。

〈3〉 さらに証拠によれば次の事実が認められる。

平成元年6月14日現在のタウンページに被告と島根日交(島根交通と誤記されている。)の電話番号として00-0000という番号が、また同じタウンページの広告欄には被告の大輪営業所として同一の電話番号が掲載され、さらに同じ広告欄には被告の殿町営業所の電話番号としてクラウンタクシーのそれである00-0000と言う番号が記載されている。しかし、00-0000という電話番号は島根日交の電話番号であり、被告も同じ番号であるようになっているのはNTTのミスによってである。また、被告の広告に、クラウンタクシーの電話番号が被告の電話番号として掲載されているが、これはあくまで被告の広告であり、島根日交やクラウンタクシーの電話番号が小さく記載されているのは、右3社間で総合配車(ある会社に電話注文が来た時、その会社に配車の余裕がないとき、他の会社に代車を要請して顧客の確保を確実にする体制を指す。)の体制を採っているからであり、配車業務自体は、3社それぞれに専属の従業員と電話を擁して行なっている。(甲14、18、20、21、27、乙26、証人田中、弁論の全趣旨)

(2) 原告は、一、3、(一)の質問の趣旨は、被告作成の昭和63年度科目内訳表の「雑収入の内訳」欄に昭和63年度経費負担金と記載された島根日交及びクラウンタクシーからの各金180万円の収入につきその内訳を質問するものであると主張する。

しかるところ、被告取締役は前記(1)、〈1〉で認定のとおり右経費負担金について説明しており、原告は経費負担金の趣旨・内容を既に知っていたもので、結果的に説明は不要であったと認められる。

また、原告は、宣伝や配車業務についても、被告と島根日交及びクラウンタクシーとの間の経費分担につき疑念があるかのごとく主張しているが、前記(1)の認定事実に照らし、右関連会社が負担すべき経費をことさら被告が負担しているとは認められないし、その点はさておくとしても、原告が被告と関連会社との経費分担について本件質問事項書に記載した質問内容は、抽象的で漠然としており、また口頭でも具体的質問がなされなかったから(甲1、乙6、証人澤)、一、3、(一)の質問に対し、田中が、各関連会社それぞれが経費の分担は正確にしている旨回答するに止まったとしても不十分なものとはいえず、説明義務違反であるとは認め難い。

(二) 一、3、(二)の質問について

被告の行なった個々の取引について契約書を作成したか否かは、特段の事情のない限り、計算書類承認議案との間に関連性を有するとは認められないところ、右の特段の事情を肯認し難いから、田中が前記第二、一、5、(一)、(3)、〈2〉のとおり回答したことが説明義務を怠ったとは到底認め難い。

(三) 一、3、(三)の質問について

(1) 原告は、右質問は、日交整備、日交商事、日交工芸、日交旅行社と被告との間の、車両整備、燃料購入、看板製作請負、旅行斡旋などの取引について質問する趣旨であると主張する。

(2) 証拠によれば、以下の事実が認められる。

〈1〉 被告は、昭和24年4月8日に設立され、同38年ころ、当時原告の代表取締役でもあった澤春蔵が被告の代表取締役に就任し、以後、現在の原告代表者である澤巌が同32年ころ取締役に、同47年7月ころ代表取締役に、田川が同28年ころ取締役に、同48年5月ころ代表取締役に順次就任した。澤春蔵や澤巌が被告の代表取締役であった時代、同人らは大阪に居住し、当時常務取締役であった田川が両名の指示を受けて被告の業務を遂行していた(証人田中、弁論の全趣旨)。

〈2〉 日交整備は昭和39年5月24日、被告の整備部門が独立して法人となる形で、日交商事は同46年3月22日、日交整備の燃料部門が分離独立する形で、日交工芸は同45年ころ、個人で看板製作などを行なっていた川原工芸を買収の上法人化させることにより、日交旅行社は同45年9月16日、被告が貸切バス運行に当たり、旅行業法に基づく斡旋業者の資格を取るため、それぞれ設立された。なお、これら各社の設立当時の代表取締役はいずれも澤春蔵であり、その後継者として澤巌が代表取締役に就任している。(乙12の1ないし4、13の1、2、14の1、2、15の1ないし3、証人澤、同田中、弁論の全趣旨)

〈3〉 被告は、日交整備にタクシーの修理・整備を請負わせ、日交商事から燃料を購入し、日交工芸には看板の製作や店舗の模様替えなどを請負わせ、日交旅行社からは旅行客の斡旋を受けるなどの取引関係を結んでいる。被告は右4社と取引をする際、交渉によって業界の水準に比べて廉価で取り引きすることとしているが、必ずしも一定の基準に従って機械的に値段が決定されるという性質の取引というわけではなく、特に車両の修理などの場合は契約条件は修理内容などの個別的な事情に左右されることとなるが、ある程度は反復・継続的な取引でもあり、特に日交整備、日交商事、日交旅行社との間の取引は大量のものである。なお、設立の経緯から、被告及び右4社の代表取締役が澤春蔵、澤巌及び田川の時代を通じて、右4社との取引は附属明細書にも記載しない扱いで処理されてきた。(証人田中、乙31)

(3) 日交工芸、日交整備、日交商事、日交旅行社の代表取締役が田川であること、被告と右各社との取引内容は必ずしも機械的に内容が決定されるものではないことは既に認定したとおりであるから、株主総会における計算書類承認議案が取締役の経営責任明確化機能を有することに鑑みると、右取引内容の概要については株主に開示されることが望ましく、計算書類規則47条1項10号も右の趣旨に理解することができる。したがって、本件において、原告の質問のとおり明細を示す必要があるか否かはともかく、被告と右関連会社との間の取引について一切説明義務が及ばないとは認め難く、右取引につき年間取引額や取引内容(継続的取引については包括的でよい。)を説明すべきであったというべく、何らの説明をしなかったのは説明義務違反に当たるといわねばならない。

5  一、4の質問について

(一) 右質問につき、本件総会において田中は第39期のタクシー代行の収支の概況として前記第二、一、5、(一)、(4)のとおり回答したところ、被告にとって、タクシー代行自体がごく小規模な事業である上(その収入は金2000万円余りで雑収入として計上されるに止まる。)、収入は被告作成の科目内訳表の雑収入の内訳欄に記載されていて明確であり(甲7)、他方、その経費はまさに細かな計数であり、会計帳簿を調べて初めて判明する事項というべきであり、原告が質問したタクシー代行業務の収支の明細は、会社の概況を理解し、計算書類承認決議の賛否を決するための合理的判断に必要な情報と解することはできず、田中の右回答の程度で十分である。また、第38期のタクシー代行の収支は、それ自体として本件総会における被告取締役の説明義務の対象とはならない。

(二) これに対し、原告は、第37、38期定時株主総会において、田中がタクシー代行の経費は総勘定元帳の一般管理費の雑費の項に計上されていると説明したため、原告が第38期の総勘定元帳の一般管理費の雑費の項からタクシー代行の経費を抽出し計算したところ、第38期定時株主総会における田川の説明に反し、タクシー代行の収支は黒字となった、そしてそれは第39期においても同様であったから、被告取締役はその矛盾につき合理的説明をなすべきであった旨主張する。

なるほど、証拠(甲1、23の1、2、31、乙6、31、証人澤、同田中)によれば、田中は第38期定時株主総会において原告の質問に応じてタクシー代行の経費は「一般管理費の雑費の項」に載っている旨説明したこと、原告は右説明を手がかりに、独自にタクシー代行の収支計算をした結果黒字となり、田川が右株主総会で「10パーセント強の持出しになっている。」と回答したことと一致しない結果となったこと、原告は本件質問事項書に右の点を付記してタクシー代行の収支状況を質問し、さらに本件総会で澤代理人が口頭にてタクシー代行の経費につき「雑費のとこに載ってます。それ以上にあるのかどうかですね。」と述べ、「雑費」以外の項にタクシー代行の経費が含まれているか否かを追及したが、田中は、準備していないことを理由に経費の明細を明らかにしなかったこと、ところで、被告会社では経理担当者がタクシー代行の収支を計算しており、第38期定時株主総会での田川の右回答及び本件総会での田中の前記回答は右の計算結果に基づくこと、実際には、タクシー代行の経費は「一般管理費」の「雑費」の項に記載のもの以外にも、タクシー乗務員が代行要員として乗務した場合の手当がその賃金に含まれており、これを含めたタクシー代行の収支は、右各期において田川や田中の回答のとおり赤字であったことが認められる。

しかるところ、原告はタクシー代行の経費の計上についての田中の前記説明を手がかりに独自に収支計算を行ない、その結果が被告取締役の回答と矛盾する旨主張するのであるが、田中が、タクシー代行の経費が「一般管理費」の「雑費」の項に網羅的に計上されているとの趣旨の説明をしたことまでは本件証拠上認められず、むしろ本件総会では右の点につき明確な説明はしておらず、原告の澤代理人も本件総会での応答で、タクシー代行の経費の一部が他の項に計上されている可能性を意識した質問をしているところである。したがって、本件総会で被告取締役がタクシー代行の収支が赤字であるとの回答をしたことと原告の計算結果が一致しないからといって被告取締役の回答に矛盾があるとはいえない。

そして、右不一致の原因を解明するためには結局タクシー代行の経費の明細を明らかにしなければならないが、前記説示のとおりタクシー代行につきその収支の明細までの説明義務は本来被告取締役にはなく、このことは原告が前記のごとき独自の計算結果に基づき明細の説明を求めたとしても変わりがないと解するべきである。よって、原告の前記主張は理由がない。

6  一、5の質問について

(一) 一、5、(一)の質問について

(1) 原告は、右質問は被告作成の科目内訳表の減価償却明細書に記載されている緑化施設、緑化庭園ないし緑化設備などの位置、内容、取得年月日について質問するものであると主張する。

しかしながら、計算書類規則47条1項3号により附属明細書の記載事項とされている「固定資産の取得及び処分」として、資産の種類別に期首残高、期中における取得及び処分並びに期末残高を記載し、またその「減価償却の明細」として資産の種類別に減価償却額を記載しなければならないと解されるが、それ以上に個々の固定資産について、その位置や内容、取得年月日などの事項の記載は必要でなく、またこれらの事項が通常会社の概況を理解し、計算書類承認決議の賛否を決するための合理的判断に必要な情報と解することはできない。なお、原告が本件質問事項書に「簸川郡大社町大字杵築東所在の土地」、「町道東側」、「町道西側」などと記載していることからして、右緑化施設のおおよその位置を把握しているものと認められる(甲2の1、2、証人田中)。

(2) 原告は、第38期定時株主総会における田中の右緑化施設などの取得時期の説明が減価償却明細書の記載と一致しなかったことや、被告取締役が建設仮勘定に計上した土地につき20年も放置していることが取締役の責任問題を生ぜしめることを根拠に、被告取締役に右質問に対する説明義務のあることを主張する。

しかしながら、原告は、本件質問事項書において、第38期定時株主総会での田中の取得時期の説明が減価償却明細書の記載と必ずしも一致しなかったことを指摘した上右質問をなしているが(甲2の1)、この点につき田中は、本件総会で、被告の調査では間違いはなかった旨及び間違いがあったのであれば指摘されたい旨述べたが、原告らは具体的な指摘をしなかったことが認められる(甲1、乙6)。なおちなみに、原告の本訴における主張によれば、田中の説明の誤りとは「昭和55年4月20日」を「昭和55年4月10日」と説明したというもので、いささか枝葉末節にわたるものである。また、後者の取締役の責任問題についても原告らは本件総会において取締役の任務懈怠に関し具体的な指摘をしなかったのであるから(甲1、乙6)、右の様な前提事実の下で説明義務を肯定すべきものとする原告の主張はその前提において失当である。

(二) 一、5、(二)、(三)の質問について

(1) 一、5、(二)、(1)の質問について

会社資産である個々の土地についての処理方針などは、特段の事情のない限り、通常会社の概況を理解し、計算書類承認決議の賛否を決するための合理的判断に必要な情報と解することはできず、計算書類規則47条1項3号も、前記のとおりの趣旨であって、個々の資産につき右のような将来の方針などにわたる記載を要求してはいない。

原告は、右質問は被告が買主となって売買契約を締結した土地につき、未だに登記名義が他人(安田充宏)名義となっていることから、どのように解決するつもりかを問うものであると主張する。なるほど、島根県簸川郡大社町大字杵築東字五反配115番1の土地が被告作成の科目内訳表の不動産明細表に記載された「大字杵築東雑種地5万5931.20平方メートル」の一部であり、被告が売却を受けてから長期間経過したにもかかわらず、被告名義への移転登記手続ができていないことが認められる(弁論の全趣旨)。しかしながら、右事由をもって、右土地に関する処理・解決方針を知ることが前記決議事項の賛否の判断に必要となると考えられないし、また、直ちに、右土地についての被告取締役の不正行為が疑われるものではないから、やはり説明義務は及ばず、被告取締役に説明義務違反はない。

(2) 一、5、(二)、(2)及び同(三)、(1)、(2)の質問について

会社資産である個々の土地について、会社取締役がその利用方法をどのように考えているか、固定資産税課税の有無、会社ないし取締役が課税の有無について調査したか否か、あるいは、会社の営業と特段関わりのない土地についての売買の交渉状況などの事項は、通常会社の概況を理解し、計算書類承認決議の賛否を決するための合理的判断に必要な情報と解することはできない。

7  一、6の質問について

(一) 一、6、(一)の質問について

原告の右質問の趣旨は質問自体からは必ずしも明らかではないが、別訴事件に関する被告の補助参加の利益について質問するものであれば、被告の業務に関連した個々の裁判活動の理由を明らかにすることが、通常会社の概況を理解し、計算書類承認決議の賛否を決するための合理的判断に必要な情報と解することはできない。原告は、右事項が計算書類規則45条1項1号の「会社の現況」に該当する旨主張するが、同号にいう会社の現況とは会社の人的物的構成を示す重要な事項を指し、別訴事件はそのような事項に該当しない。また、原告は、別訴事件が同条1項5号の「会社が対処すべき課題」に該当する旨主張するが、同号にいう会社が対処すべき課題とは、会社が将来に向けて活動する上で対処すべき基本的問題を指し、別訴事件はこれに当たらないと解するべきである。

また、原告の質問が島根県簸川郡大社町大字杵築東所在の町道真名井矢野線の西側土地の利用方法自体を問うものであれば、営業に直接関連しない特定の土地の利用方針などは、特段の事情がない限り、会社の概況を理解し、計算書類承認決議の賛否を決するための合理的判断に必要な情報だと解することはできず、やはり被告取締役に説明義務はないところ、本件では右の特段の事情を肯認し難い。

(二) 一、6、(二)の質問について

会社が訴訟に補助参加したからといって、その訴訟費用の支出状況を知らなければ会社の概況を知り、計算書類承認決議の賛否を決するために合理的判断ができないとはいえないし、会社が自社の取締役の責任を追及する株主代表訴訟に補助参加したからといって、直ちに「お手盛り」により取締役が負担すべき訴訟費用を会社が負担するおそれがあると認めることはできず、右補助参加が計算書類規則47条1項10号所定の取引に該当するものとも認められない。

したがって、原告の主張は失当である。

(三) 一、6、(三)の質問について

右質問は被告が購入した島根県簸川郡大社町大字杵築東所在の土地のうち町道真名井矢野線の西側の土地に触れているところ、被告は、昭和41年から同44年にかけて、同所所在の土地76筆を代金1億円余で購入したが、そのうち右町道より西側に位置する土地は、農地法5条の許可がなく被告への所有権移転登記手続未了のままであり、被告の昭和63年度科目内訳表によると右各土地に関する費用として金1261万4846円が建設仮勘定に残されている(乙7、28、弁論の全趣旨)。

そこで、被告の説明義務違反の有無について判断するに、右質問が具体的に何を問題としているのかは質問自体からは必ずしも明確ではないが、被告が別訴事件において行なった答弁・主張の内容自体を問題とするのであれば特段の事情がない限り説明義務が及ばないし、原告が主張するとおり、右土地が真実被告に帰属しているか否かを疑問とし、この点に関する被告の認識を問うものであれば、所有権の帰属につき係争中の物件であることを前提とすれば、田中が回答した程度で十分である。

これに対し、原告は、田川が第37期定時株主総会において右各土地について「十中八、九うちのものになりません。」と発言したことを問題とする。しかしながら、田中の前記回答により田川の右発言は訂正されたと解することができるし、他方、被告が実際に所有権移転登記手続をとるには種々の困難も予想される状態にあり、その認識が田川の右発言となって現われたと推認できるところ、その事情は原告自身が別訴事件において主張しており、原告自身が田川の発言同様の認識を有していたと認められ(乙28)、このような事情の下では、右田中の発言を越えて被告取締役に説明義務の存在を認めることはできない。

(四) 一、6、(四)の質問について

営業に直接関連しない特定の土地の利用や造成の有無は、特段の事情がない限り、会社の概況を理解し、計算書類承認決議の賛否を決するための合理的判断に必要な情報だと解することはできない。原告は、この質問についても、第37期定時株主総会における田川ないし田中の発言と、別訴事件における答弁・主張の違いを問題としているが、別訴事件における答弁・主張の内容自体は計算書類承認議案との間に関連性を有しないし、被告の従来の主張などが必ずしも一貫しなかったとしても、田中は本件総会において従前の発言を訂正しており、係争中の物件であることを前提とすると、この程度の回答で十分である。

8  一、7の質問について

(一) 株主は会社の実質的所有者であり、利益配当を受けることは株主が会社に投資する重要な目的の一つであるから、配当に関する事項について株主が重大な利害関係と関心を持つのは当然のことであり、配当性向に関する事項は利益処分案の承認決議に賛否の判断をするに必要な情報と考えられる。したがって、会社は配当政策に関して株主の質問に対し説明する義務があると解するべきである。

(二) そこで、被告取締役の説明義務違反の有無について検討する。

(1) 既に認定した事実及び証拠(甲1、乙2、6、証人澤、同田中、弁論の全趣旨)によれば、被告の配当性向は、第37期が13.68パーセント、第38期が7.59パーセント、第39期が約7.32パーセントであり、他方、別途積立金の総額は本件総会の時点で金3億4000万円で、第39期の利益は3934万8378円であり、内金3500万円を別途積立金として社内に留保したこと、第38期定時株主総会において、田川が、無借金になったら増配も考えようとの趣旨の発言をしたこと、本件総会において田中が一括回答した際、配当性向や株主への利益還元について特別の考えはないが継続的安定配当に努力したいと回答し、さらに澤代理人の補足質問に対し、田中が配当に対する考えは別に前期と変わっていない旨回答し、田川が借金と言うのはよそから借りたのが借金である旨回答したことが認められる。

(2) 右認定事実によれば、田中は、原告が第39期に至るまでの各期の計算書類の記載により、被告の利益・負債・積立金などの推移について認識していることを前提として、第39期の利益の処分に当たり、期間損益を重視して配当性向の向上を目指すのではなく安定配当を重視し、利益の内部留保により経営の安定にも留意する方針であると配当政策を述べ、補足質問に対しこの方針は従前から変更がないと説明したものであり、説明がやや簡素に過ぎる点があったにせよ、説明義務の履行として必ずしも不十分なものとはいえない。

また、原告は、被告において配当政策の変更があったかのように主張するが、前記認定の事実及び証人田中の証言によれば、被告は従来から安定配当を重視する配当政策を採用していたものと認められ、第38期定時株主総会における田川の発言は、右配当政策を前提にして企業体質が安定すれば増配も考えたい旨の抽象的、願望的な発言に過ぎず、このような発言をとらえて、一定の財務状況になれば当然に増配する旨の配当政策を開陳ないし約束したものと解することはできない。

(3) したがって、被告取締役に説明義務違反はない。

四  役員選任議案に関する説明義務違反の有無(争点2の(一〇)、(一一))について

1(一)  役員選任議案についても、合理的な平均的株主が議案に対する賛否の合理的判断をなすに必要な情報のみが議題と実質的に関連するものとして説明義務の対象となる。その具体的範囲も既に判示したとおりであり、参考書類の記載事項が一応の標準となると解するべきであり、右記載事項については参考書類規則の適用がない小会社においても説明義務が及ぶものと解するべきことも同様である。

(二)  証拠(甲1、31、32、乙5の1ないし5、6、19の1ないし12、30、31、証人澤、同田中、弁論の全趣旨)によれば以下の事実が認められる。

(1) 従前、原告及び被告の代表取締役を兼ねていた澤春蔵は、死去した昭和47年ころまでの間、大阪に在住しながら、常務であった田川らに対する指示・命令を通して被告の業務執行を行なっていた。また、当時被告の株式のほとんどを同人が保有していた。

(2) その後、澤春蔵の甥である澤巌が原告及び被告の代表取締役となったが、澤春蔵の相続人である澤昭二、澤二郎、深田カズコらとの間はしっくりといってはいなかった。

(3) 昭和48年5月7日に開催された被告の定時株主総会において、議長の澤巌は、正当な理由もないのに議事進行はもちろん出席株主・株式数の報告さえすることなく休会を提案し、2時間あまりの議論の後株主らの反対を押切って、流会を宣言して退席し、原告及びこれに同調する株主(右株主らの株式を合計すると3万4997株となり、澤廣行の保有株式数と一致するため、同人はこれらの者の株式を譲り受けたものと推認できる。甲5)も澤巌とともに退席した。その後、退席しなかった株主らの全員一致により取締役吉村光春を議長として株主総会を行ない、田川、澤昭二、石村、吉村光春、中島を取締役に選任する旨の決議を行なった。なお、その後、被告の代表取締役には田川が就任した。

(4) 昭和49年度及び同50年度の定時株主総会には原告及び同48年度の定時株主総会において原告に同調した澤廣行らの株主(株式数19万9997株)は出席しなかったが、その後本件総会に至るまでの各年度の定時株主総会には同56年に原告及び澤廣行が欠席した以外は株主全員が出席した。

また、右各株主総会への取締役の出席状況は、昭和53年度の出席取締役が田川、深田和男、中島、同55年度が田川、中島、石村、同63年度及び本件総会が田川、田中、中島であった外は、全て取締役全員が出席している。

(5) 昭和50年度の定時株主総会から本件総会に至るまで1年置きに役員選任決議がなされたが、昭和50年に取締役として田川、深田和男、石村、中島が、昭和56年に取締役として田川、石村、中島、田中、新谷が選任された以外は、毎回株主が全員重任を動議し、もしくは株主が議長一任を動議し田川において全員重任の提案をし、そのまま全員重任の決議がされるというのが慣行であった。なお、右役員選任決議に対する議決権行使の状況は、昭和48年、同50年、同52年、同56年、同58年が全員一致であり、同54年、同60年、同62年及本件総会が賛成多数であった。

(6) 本件総会における役員選任決議は、田川の「2号議案の選任の件はいかがでしょうか。」との発言に対し、代理人などとして出席していた藤井薫や森山文二、新谷が「全員重任」の動議を行ない、澤代理人及び澤廣行の反対を押切って決議されたものである。その際、澤代理人は、澤廣行を取締役に推薦し、また、質問事項に回答するよう求めたが、賛成多数で全員重任の決議がなされ、補充質問に対しての回答はなかった。

(7) 田川は、昭和28年ころ被告の取締役となり、代表取締役であった澤春蔵らの指示を受けて被告の業務執行を実地に担当していたのであり、田川自身の経歴などは原告らにおいても一応知識を有しており、また田川が本件総会時において70歳前後であることも知っていた。

また、田中は、昭和62年度の第37期定時株主総会において、原告の質問を受けて、田川が社長として業務を統轄する旨の回答を行なった。

(8) 石村は、従前原告会社においてバス事業に関する業務を担当していたところ、前記のとおり昭和48年に被告の取締役に就任し、同年度の株主総会の場で経歴その他の点について自己紹介を行なった。同人は、大阪府八尾市在住であり、本件総会当時は被告の非常勤取締役であり、主にバス事業に関して助言などを行なっていた。

原告は、石村が、以前原告においてバス業務を担当していたこと及び被告の非常勤取締役であることを知っており、さらに、澤代理人は、同人のことをある程度知っており、役員不適格である旨の評価を下していた。また、田中は、昭和62年度の第37期定時株主総会において、原告の質問を受けて、石村が非常勤取締役としてバス事業につき助言する立場である旨の回答を行なった。

(9) 中島は、本件総会当時60歳前後であり、以前島根県庁の人事課長であったところ、前記のとおり昭和48年に被告取締役に就任し、同年度の株主総会の場で自己紹介などを行なった。同人は、非常勤取締役として、その経歴から、県庁その他の役所と関係する事務を処理していた。

澤代理人は、中島が非常勤取締役であること及び県庁の出身であることを知っていた。また、田中は、昭和62年度の第37期定時株主総会において、原告の質問を受けて、中島が非常勤取締役として県庁その他の役所が関係する事務を処理する立場である旨の回答を行なった。

(10) 新谷は、昭和37、8年ころ被告会社に入社し、事故処理、渉外、車両、損害などの業務に携わっていたものであるところ、前記のとおり同56年に被告取締役に就任し、その後挨拶などを行なった。同人は、同58年から常務取締役となり、田中とともに田川を補佐し、日常の業務の執行に携わっていた。

澤代理人は、本件総会以前の定時株主総会において新谷と会い、名刺交換などを行なっていたし、同人が常務取締役であることを知っていた。また、田中は、昭和62年度の第37期定時株主総会において、原告の質問を受けて、右新谷が常務取締役として田中とともに田川を補佐し、日常の業務の執行に携わっている旨の回答を行なった。

(11) 田中は、昭和30年に被告に入社し、雑務、経理、総務などの職務の後、前記のとおり同56年に被告取締役に就任し、その後、挨拶などを行なった。同人は同年常務取締役、同58年専務取締役となり、新谷とともに田川を補佐し、日常の業務執行に携わっていた。

澤代理人は、田中が、古くから被告の事務員として在職していたことや専務取締役であることなどを知っていた。また、田中は、昭和62年度の第37期定時株主総会において、原告の質問を受けて、田中が専務取締役として新谷とともに田川を補佐し、日常の業務の執行に携わっている旨の回答を行なった。

2  ところで、被告は、本件総会における役員選任決議は株主の全員重任を求める動議に基づき決議されたものであり、このような場合には原告の質問した事項について説明をする義務は被告にないと主張する。確かに、取締役がそのあずかり知らぬことについて説明義務を負うのは不合理であり、また、既に認定したとおり全員重任の動議は藤井薫や森山文二もしくは新谷からなされたものではあるが、他方、被告の株主総会における役員選任決議は、ほとんどの場合、株主の動議もしくは株主から一任された議長の動議により全員重任という決議がなされており、また各取締役においても、本件総会において全員重任の決議がなされると考えていたことが認められ(証人田中)、このような状況においては、株主の動議という形式がとられたからといって、被告取締役に重任となる候補者について説明をさせることは不合理とはいえず、説明義務を肯定するべきである。

そこで、以下、個々の質問事項について検討する。

3  二、1の質問について

(一) 新取締役選任後の体制については、新取締役選任後の取締役会において決定されるべきことであり、右の点に関する取締役候補者の考えを推薦理由の一環として説明するというのであれば別論として、役員選任決議の賛否の判断のために必要な質問とはいえず、一般的には説明義務の対象とはならないと解するべきである。もっとも、取締役候補者が重任となる者である場合には、質問内容によっては、今後の体制などについての意見を概括的に明らかにする説明義務を認める余地もないではない。

(二) しかしながら、右の点に関する原告らの質問事項は、田川の後継者問題を除くと必ずしも意味が明確ではないところ、この点につき原告は経営責任を明確にするとか簸川郡大社町大字杵築東町道真井矢野線西側土地問題の担当者が誰かが不明であると主張する。しかしながら、抽象的に経営責任といっても何について質問しているのかが不明確であるし、一般的に全体構想や指導体制・義務分担ないし責任の所在という文言で抽象的に表現される事項の全てを説明する義務はない。さらに、土地問題の担当者が誰であるかを問うことが右質問の具体的目的であるといった説明は、本件総会において原告からなされていないし、また、株主は、当該取締役候補の従前の業務執行状況を概括的に明らかにするよう求めることができるのみで、個別的な業務執行状況については原則として説明を求め得ないと解するべきであるから、結局、右質問事項は役員選任議案に関連しない。

(三) また、田川の後継者問題についても、合理的な平均的株主が議案に対する賛否の合理的判断をなすに必要な情報と解することはできず、説明義務の対象とならない。原告は、田川の年齢を理由として不測の事態に備えるべき旨を主張するが、田川の健康状態に問題があって任期を全うできない恐れがあるなどの特段の事情のない限り、田川の後継者についての質問に対し説明義務はないと解するべきところ、右の特段の事情の主張立証はないから、被告取締役に説明義務違反はない。

(四) なお、田川が、澤代理人らの質問事項がある旨の発言をさえぎった点が問題となるが、既に判示したとおり、原告は右質問によって役員選任議案と関連性を有する質問を求めていたものとは認められず、結局、この点をもって説明義務違反があったとか、決議の方法に瑕疵があったということはできない。

4  二、2の質問について

(一) 二、2、(一)、(二)の質問について

(1) 本件総会における役員の全員重任について、既に判示したとおり、重任予定の取締役については、被告取締役において候補者に関する情報を開示することに合理性があるものと認められ、説明義務を肯定することができる。

(2) 参考書類規則3条1項1号は参考書類に候補者の氏名、生年月日、略歴その他の事項について記載を要求しており、これらの事項は役員選任議案につき賛否を決するに重要な情報であり、説明義務の対象となる。原告はさらに人格、識見、特技、能力、人脈なども問題とするところ、人格、識見などの抽象的な事項についてはともかく、取締役としての能力を明らかにする事項は概括的に説明を要するものと解するべきである。

(3) 前記認定のとおり、田中は、昭和62年度の第37期定時株主総会において、田川、新谷及び田中が古くから被告に勤務していたこと、田川は社長として業務を総括すること、石村は非常勤取締役であり、バス事業について被告に助言を与える立場であること、中島は非常勤取締役であり、県庁など役所関係の事務を担当すること、新谷は常務取締役として田川を補佐し、日常の業務執行に携わること、田中は専務取締役として新谷とともに田川を補佐し、日常の業務に携わることを説明していたところ、本件総会においては右説明を前提として、従前のとおりであり一切変っていない旨回答した。

(4) ところで、田中の右説明によっても被告の求めた事項のうち、田川以外の者の年齢、中島や石村の略歴は明らかでないし、取締役としての能力などについては一切説明されていない。

しかしながら、前記認定の事実及び証拠によれば、

〈1〉 原告は、澤春蔵が代表者であった時代には被告会社を支配下においていたこと、

〈2〉 中島及び石村は昭和48年に就任した際に自己紹介を行なったこと、

〈3〉 原告は、昭和51年以降本件総会に至るまで、昭和56年を除き全て出席しており、その際には、田川初め石村、中島、新谷、田中と何度も会っており、新谷とは名刺交換も行なっているし、昭和52年には田川、石村、中島の取締役就任に、昭和58年には田川、石村、中島、新谷、田中の取締役就任に賛成していること、

〈4〉 田川、田中、新谷はそれぞれ被告が原告会社の指示・命令によって運営されていたころからの職員であったこと、石村は過去に原告においてバス事業に関する業務を担当していたこと、

〈5〉 澤代理人が、田川の経歴及びおおよその年齢について知識を有していること、石村が非常勤取締役であり、同人については一定の評価を持つだけの知識を有していること、中島が非常勤取締役で島根県庁の出身であること、新谷が常務であること、田中が古くからの被告の従業員であったことなどを知っていたこと(証人澤)、

〈6〉 原告が、これまで被告取締役について有していた知識や態度について変更を迫られるような事情は特に存在しないこと、

が認められ、右の事情を総合すると、原告は、本件総会における取締役候補者について、同人らを取締役に選任するか否かを決するに必要な情報を有していたものと認められる。

そうであるとすると、田中の説明は、原告の右知識を前提として不十分なものとはいえず、説明義務違反はない。

また、株主は、重任予定の取締役候補者について個別的な業務執行状況については原則として説明を求め得ないものと解するべきであるから、そのような質問については被告に説明義務はない。

(二) 二、2、(三)の質問について

右質問事項は極めて抽象的であり、このような抽象的な質問に対してまで説明義務は及ばないものと解するべきである。

(三) 二、2、(四)の質問について

既に判示したとおり、新取締役選任後の体制については、新取締役選任後の取締役会において決定されるべきことであり、役員選任議案の決議の際に行なうのに適切な質問とはいえないが、取締役候補者全員が重任となる者である場合には、質問内容によっては、説明義務を認める余地もないではないところ、田中は従前のとおりである旨回答したのであり、前記(一)で認定判断した事実に照らせば、右回答で不十分とはいえず、被告取締役に説明義務違反はない。

5  二、3、4の質問について

二、3の質問の趣旨は必ずしも明らかではないが、島根県簸川郡大社町大字杵築東所在の土地について、所有権移転登記手続や出雲大社への売却の交渉、あるいは造成や有効利用などの担当者を問うものと解され、また二、4の質問は別訴事件の訴訟活動に関する担当者を問うものと解されるが、右のような個別的業務を誰が担当していたかなどは、その業務執行状況に具体的な問題点ないしこれを疑わせる事実があるなど特段の事情のない限り、役員選任議案の賛否を決するについて必要な情報ではないと解するべきところ、本件において右特段の事情は認められないので、結局、右質問事項につき被告取締役の説明義務は及ばないと解するべきである。

五  以上によれば、原告が本件総会でなした各質問のうち一、3、(三)の質問に対し被告取締役が何ら回答しなかった点を除いては、説明義務違反は認められない。

他方、被告取締役が一、3、(三)の質問に対し何ら回答しなかった点は説明義務違反であり、これは計算書類承認決議につき決議方法の法令違反を招来する。

しかしながら、株主総会における株主からの個々の質問事項に対する説明義務の有無及び範囲は、必ずしも一義的に明白なものではなく、特に本件のごとき計算書類承認議案に関しては、説明義務が問題となる事項は相当広範であり、かつ、個々の質問事項についての説明義務の有無及び範囲の判断は相対的で極めて困難を伴うものであるところ、もし、多岐にわたる質問事項の一部でも結果的に説明義務違反があったと評価されれば、常に計算書類承認決議取消の結果を招来するというのは相当と思われず、株主総会の円滑な運営及び法的安定性の確保にも配慮が必要というべきである。しかるところ、本件において、一、3、(三)の質問事項は計算書類承認決議の賛否の判断に必要な各種の情報の一部に過ぎないし、前記第三、三、4、(三)、(2)の認定事実によれば、被告と日交整備など関連会社4社との取引は、もともと原告の代表取締役であった澤春蔵や澤巌が被告の代表取締役であった当時から始まり、その後長年月にわたり反復継続して行なわれて来たものであり、原告においておおよその取引形態は認識していたと認められる上、証拠(甲1、23の1、33の1、乙6、31、証人澤、同田中、弁論の全趣旨)によれば、被告は従前から、前記関連会社4社との取引内容を逐一経費元帳等の会計帳簿に記載しており、これを閲覧すれば取引量、取引額等の取引の明細を把握することができること、原告は、昭和53年ころから被告の会計帳簿を定時株主総会の開催前に閲覧謄写し、これを検討の上株主総会に出席しているが、従前の株主総会で被告と右関連会社4社との取引につき具体的な疑義を指摘したことはなかったこと、本件総会に際しても、原告は被告の会計帳簿を事前に閲覧謄写した上本件総会に出席したものであるが、本件質問事項書における原告らの一、3、(三)の質問事項について田中が本件議案と直接関係がないとの理由で回答しなかったのに対し、原告らは、他の質問事項については口頭で種々補足質問を行なったが、右質問事項については具体的疑義を指摘しての補足質問を行なうこともなく終わったことなどの事実が認められる。

右認定説示によれば、被告取締役が一、3、(三)の質問に何ら回答しなかった点の説明義務違反は、さ程重大なものとはいえず、右説明義務違反の点で計算書類承認決議の決議方法に法令違反があるとしても、その瑕疵の程度は軽微であると認められる。そして、前記認定事実によれば、仮に被告取締役が右質問に対し説明義務の範囲内で回答していたとしても、右決議の賛否の判断を左右するような問題が露呈した可能性は存しないし、前記第二、一、4、8の事実及び証拠(甲1、乙6、弁論の全趣旨)によれば、本件総会には被告の株主全員が出席しており、計算書類承認決議は少なくとも原告らを除く株主全員(その持株割合は約79.2パーセント)の賛成多数により可決されたこと、その他叙上諸般の事情を勘案すると、右瑕疵は決議の結果に影響を及ぼさなかったものと認めて差し支えない。

よって、計算書類承認決議の取消請求については、当裁判所は、商法251条を適用して裁量により棄却することとする。

なお、右説示に照らすと、右説明義務違反が計算書類承認決議の決議方法の著しい不公正をもたらすとも認め難い。

以上により、原告の本訴請求を全て棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中澄夫 裁判官 宮本由美子 裁判官 檜皮髙弘)

別紙

質問事項目録

一 計算書類承認議案に関して

1 バス部門について

(一) 直接人員及び間接人員のそれぞれの員数及び前期との増減の状況

(二) 第39期における経費の明細及び前期との増減の状況

2 タクシー部門について

(一) 営業所の配置状況

(二) 営業所別の、〈1〉認可車両台数、〈2〉乗務員数、〈3〉管理職の人数、〈4〉その他間接人員数、〈5〉無線の体制(関連会社と一体運営を行なっている地区がある場合はその状況)、〈6〉運送収入、〈7〉経費の明細、及び前期との増減の状況

3 関連会社との関係について

(一) 被告の関連会社との経費の分担は、具体的にどのような費用について、どの関連会社にいくら分担させているか。

(二) 被告の関連会社との不動産の貸借について、第39期において賃貸借契約書を作成したか。していない場合はその理由。

(三) 被告と関連会社との年間取引額及び取引内容についての会社別の明細

4 タクシー代行について

第38期及び第39期における被告のタクシー代行営業の収支状況

5 簸川郡大社町大字杵築東所在の土地に関する事項

(一) 被告決算書附属明細書の減価償却明細書に資産計上されている「緑化施設」「緑化庭園」「緑化設備」及び「庭園」についてのそれぞれの位置、内容及び取得年月日

(二)(1) 町道真名井矢野線よりも東側にある字五反配115番1の土地について、第39期においてどのような検討を行ない、どのような処理方針を定めたか。処理方針を定めた場合は着手の有無と今後の見通し。

(2) 町道真名井矢野線より東側の土地の有効利用について、第39期においてどのような処理方針を定めたか。定めた場合は着手の有無と今後の見通し。

(三)(1) 建設仮勘定に計上されている町道真名井矢野線より西側の土地について、固定資産税課税の有無についての昭和62年7月以降の調査の結果。

(2) 右(1)の土地の出雲大社との間の売却交渉の進展状況及び今後の見通し

6 松江地方裁判所昭和63年ワ第41号事件に対する補助参加について

(一) 右事件において、被告は「資産を構成する土地の有効利用などの会社業務に重大な支障が生ずる」との理由で補助参加しているが、右事件で問題となっている町道西側土地についてどのような有効利用を考えているのか。それが右事件によってどのように阻害されるのか。

(二) 右事件の訴訟関係費の支出状況及び右事件の被告である被告取締役との費用の負担状況

(三) 田川は、第37期株主総会において町道真名井矢野線西側の土地について「多分十中八、九はうちのものになりません。」と答弁し、他方右事件においては、右土地の所有権は被告に帰属していると主張する。いずれが被告の認識と合致するか。後者とした場合、田川の発言はどのように位置付けられるか。

(四) 第37期の株主総会において、田川及び田中は、町道真名井矢野線西側の土地については造成を行なっていないと答弁したが、他方右事件においては造成を行なった旨主張している。いずれが事実なのか及び後者であった場合には取締役の説明が虚偽であったことになるが、これについてどのような始末を考えているか。

7 利益処分案について

第35期以降における被告の配当性向は、昭和61年度の13.68パーセントを最高として第38期においては当期未処分利益が前期比で211パーセントも増加したにもかかわらず配当性向は7.59パーセントに低下し、かつ実質上無借金経営が達成されたと思われる第39期の利益処分案において配当性向は7.32パーセントに低下している。

配当性向を右のような低率に止めている理由は何か。利益の株主還元についてどのように考えているか。

二 役員選任議案に関して

1 被告の今後の経営体制について

(一) どのような全体構想を描いているか。田川の後継問題についてどう考えているか。

(二) 指導体制・業務分担及び責任の所在をどう考えているか。

2 取締役候補の各人について

(一) 人格、識見、年齢、これまで従事してきた仕事、特技、能力、人脈などの諸点を踏まえた具体的な推薦理由

(二) 重任予定者について従前における常勤・非常勤の別、従前における取締役会への出席状況、従前における業務分担及びその遂行状況

特に、前記一記載の、〈1〉被告関連会社との経費分担問題、〈2〉被告関連会社との不動産の貸借に関する問題、〈3〉被告関連会社との取引に関する問題、〈4〉タクシー代行営業は誰が担当していたか。

(三) 重任予定者について、解決を要する問題としてどのようなことが存するかの認識及び抱負

(四) 取締役に選任された場合の常勤・非常勤の別及び就任後の担当業務

3 大社町杵築東所在の土地の問題の従前の担当者及び今後の担当予定者

4 松江地方裁判所昭和63年ワ第41号事件の従前の担当者及び今後の担当予定者

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